
手浴とは長期臥床中の患者さんに対して行うケアの一つで、ベッド上で手だけお風呂に入れるように援助する方法を指します

お風呂といっても洗面器にお湯を張ってジャポンと手を付けて、石鹸で付けて泡立てて流す、というような簡易的な方法なのですが。
看護学校でももちろん手浴の方法を習い、実技練習していました。
でも、なぜか足浴(同じ要領で足を洗う援助法)に比べて実施される回数が少ない手浴。
看護実習中も患者さんに足浴はしましたが、手浴はしませんでした。
その理由はきっと、学生はそこまで重症の患者さんを受け持つことがないからだと後からわかりましたが…。
臨床では実際に重症の患者さんの全身清拭・陰部洗浄・更衣・口腔ケアは毎日もれなく実施されています。
動いていなくても汗や落屑(らくせつ)物で患者さんの皮膚は汚染しやすく、臭いの原因になりやすいからです。
それに家族の方が来られた場合、いつも看護師によって整容されている姿を見ると安心されます。
その逆だと…
「看護師さん、ちゃんとうちの人、見てくれてるの

と、不安になりますよね。
洗髪・足浴・手浴は毎日ではありませんが、患者さんの状態に合わせて適宜予定を組んでケアをしています。
例えば
「今日は処置がないから洗髪しよう」とか、
「足の爪が伸びてきたな…。足浴した後に爪を切ろう。」
とかいう具合です。
その中でなぜか後回しにされやすい手浴。
でも手の平って実はすごい汗をかく部位なんですよ。
長期臥床中の患者さんの全身の保清援助が終わったはずなのに、なぜか臭いが取れない…。
クンクンと手の臭いを嗅ぐと、
「わっ



という事はしばしばありました。
なのでその日の担当で臥床中の患者さんが当たった時にはここ最近のケア実施表をチェックして、何日かに一回は必ず手浴も実施するように注意していました。
(私なりのこだわりって感じです。)
手浴は皮膚の清潔を保つという意味でも重要ですが、芯まで冷え切った患者さんの手を温めてあげることでリラックス効果が期待できますね。
あと、忘れてはいけないスキンシップ効果。
日本人はとにかくスキンシップが苦手…。
患者さん相手になんてもちろん、家族でも親子でも(子供時代以外は)自然に触れ合う機会が減っていくもの…。
でも看護師はケアという形を通じて、患者さんに触れることができる仕事なんです。
それが許される仕事なんて、あまりないと思います。
看護師は工夫次第で患者さんに効果的なアプローチが無限に出来るという、特殊な仕事だと思いませんか

さて、ここで私の手浴にまつわる印象的なエピソードについて少しお話します。
昔、人工呼吸器装着中で薬液入眠している患者さんの手浴を、自分が日勤で担当する度に実施していたことがありました。
多発性骨髄腫のため化学療法目的で入院中にカリニ肺炎にかかり、人工呼吸器を装着した患者さんでした。
私はいつも、手浴しながらその患者さんの名前を読んだり話しかけたりしていたのですが、薬液入眠中のためもちろん返事はなし。
その患者さんは奇跡的に全身状態が改善して、人工呼吸器から離脱することが出来ました。
その患者はある日、こんなことを話してくれました。
「もうろうとする意識の中、誰かが私の手を温めながら名前を呼んでくれてたの…。」
その言葉を聞いた時は一瞬耳を疑いました。
薬液入眠中でも手の感覚や聴覚は働いていたんですね。
もちろん全ての患者さんに同じことが当てはまるとは言い切れませんが、手浴が重症患者さんとのコミュニケーションツールになるという事を身を持って実感した瞬間でした

元気な時には手を洗うという援助法なんて、あまり重要なものだとは気がつかないものです。
でも患者さんはその温かさや私達の声を感じ取りながら、必死に闘病生活を送っているという事を忘れないようにしましょう。
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